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ARTISTS

Alberto Giacometti

アルベルト・ジャコメッティ

1901-1966 / スイス

アルベルト・ジャコメッティ 「歩く男」
ブロンズ 1960年 (スイス チューリヒ美術館)

スイスでよく知られる後期印象派の画家、ジョヴァンニ・ジャコメッティの長男として生まれる。アルプスの峰に囲まれた深い谷間に位置する寒村スタンパで幼少時代を過ごす。11歳頃から絵画において非凡な才能を発揮。ジュネーブの美術学校で絵画を、美術工芸学校で彫刻を学ぶ。1922年にパリに出て、アカデミー・ド・ラ・グランド=ショミエールでロダンの弟子ブールデルに師事。後期キュビズムや原始彫刻などの影響を受けたのちに、1930年にシュルレアリスムのメンバーとなり、前衛的なオブジェで一躍名声を得た。しかし、1935年、モデルを使った人物像の彫刻に立ち返る。「見えるものを見えるとおりに表す」ことに生涯をかけ取り組むよう自らに課し、シュルレアリスムから離れていった。第二次世界大戦のナチス侵攻を機にジュネーブで3年余りを過ごし、パリに戻ると、針金のように細長い人物像を発表し始める。1948年ニューヨークでの個展で、大きな反響を呼んだ。

遠近法や陰影といった既成の方法や観念を一切排除して対象の前に立ち、人物を肉眼で凝視して、空間との関係とともに彫像や絵画に丸ごと写そうと試みた。モデルには、距離を保った位置で不動の姿勢を崩さずポーズし続けることを要求。わずかな知覚の変化を顔のなかに捉え、細かな線を消しては描き重ねる執拗なデッサンを繰り返した。目に見える全てを描き切ることは不可能と受け入れながら、見える瞬間の出現と消滅の果てを、灰色の画面や粘土に定着させようとした。対象や記憶の中心に焦点をあわせるほど像が小さくなったため、高さを一定に求めたところ、縦に引き伸ばされた独特の造形が現れた。

人間の生は行動を通してのみ意味を持つと考えたジャコメッティにとって、芸術は、自己自身の知覚で現実(リアリテ)を見出し行動していくための手段だった。親交の深かった哲学者サルトルの実存主義や現象学に大きな影響を受けている。また、大戦という恐怖からの解放とともに生じた疑念、人間性への根源的な不安といった同時代の意識も共有していた。透徹したまなざしでただ「見えるとおり」を突き詰める姿勢を貫き、削ってもなお在るものを凝縮させた、鋭い線状の彫像を生み出した。

2010年2月、サザビーズのオークションに「歩く男」(1961年 ※「歩く男」のブロンズ像は6体存在)が出品される。美術品としては過去最高額となる6500万1250ポンド(約94億円、手数料込)で落札され、話題を呼んだ。

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