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ART FAIR TOKYO 2015 作品紹介 | 村上三郎

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# ART FAIR TOKYO # 村上三郎

一雨ごとの暖かさを感じるこの季節、3月といえばアートフェア東京の季節ですね。NUKAGA GALLERYでは、今年は1950、60、70年代の日本戦後美術にフォーカスした展示をいたします。これより3回にわたり、出品作品からピックアップした注目作品を皆様にご紹介いたします。第1回は具体美術の中心作家、村上三郎(1925-1996)。具体の中でも作品にお目にかかるのがとてもレアな作家です。

 

村上三郎? 誰? 白髪一雄や元永定正ほど有名なの? と、その重要性の割に名前がメジャーでない村上三郎ですが、実は具体美術の作家の中でも最も評価されるべき作家の一人です。ある意味、白髪や元永以上に村上の作品にはキラリと光るものがあります。

村上三郎 作品
村上三郎 作品 Work 1959

見てみてください、この絵のマチエール(肌合い)を。厚く塗り固められ、強固な画面を作りつつも、勢いと瞬発力がある。そして、勢いだけでなく、実は丁寧に、恐らく材料を変え、質感を変え、様々に変化する画面を作り上げている。これは、村上の精神と独自の深い思想が発露したカタチなのでしょう。

 

50年代に1年ほど村上と同居していた元永によれば、村上はいつも昼過ぎに起き、そこから晩まで酒を飲み続けていたといいます。しかし、ひとたび制作に取り掛かると、それはすごい速さだったと。つまり、無作為にだらだらと無頼を気取って日々を過ごしているのではなく、実は村上は彼の芸術において問題としていたことを常に考え、考え、酒を飲みながらでも考え、そしてその考えをすごい瞬発力でキャンバスにぶつける。もしくは、アクションやパフォーマンスとして発表する。村上が世に残した作品は他の具体の作家に比べて少ないけれども、一点一点に魂がこもっている。アクションやパフォーマンスにも迫力があります。

村上三郎 通過
村上三郎 通過 Passage 1956

村上の作品には、彼が常に考えていた物質、精神、空間、時間というテーマが閉じ込められています。それは、キャンバスの上でもアクションでも変わりません。村上自身も「絵とアクションというものを全然わけて考えていない」と語っています。有名な紙破りのパフォーマンスや作品では、時間の永続性や物事の必然性と、瞬間瞬間のふわっとした儚さ、偶然性が共存しています。このようなアプローチは極めて“具体的”であり、吉原治良と共感するところも多かったのではないでしょうか。

 

一方で、関西学院大学で美学を修めた村上の作品にはいつもコンセプチュアルで理屈っぽい匂いがつきまといます。これは作品が説明的になることを嫌った具体美術のポリシーとは一致しない姿勢です。村上は、そういう意味では最も具体っぽくない、もしくは具体の枠に収まらない作家だったのでしょう。ある意味具体という枠が、村上にジレンマを与えていたのかもしれません。しかしまたそのジレンマが、彼に新たな思索と創作意欲をかきたてたとも言えます。

本作からはそんな村上のエネルギーや思想が、美的感動として直感的に伝わってきます。この作品が描かれた1959年は、2年前に具体美術がミシェル・タピエ※と出会い、色々な意味で具体にとって新たな変化が起き、様々な変化の中で村上の最も“面白い”作品が生まれた頃。この時代の、その空気や熱、新しさを、そして村上三郎という作家のエネルギーと繊細さを、この作品を通して感じていただけたら幸いです。

 

※フランスの美術批評家。第二次世界大戦後にフランスで発生した前衛芸術運動・アンフォルメルの中心人物。日本の具体美術協会を積極的に支持、広く海外に紹介する。タピエとの出会いにより、具体の活動は、輸送しやすく売買可能な絵画が中心となっていった。

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