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ART FAIR TOKYO 2015 作品紹介 | 高松次郎
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アートフェア東京2015のNUKAGA GALLERYの出品作品から、注目の作品をピックアップする第2回目。今回ご紹介するのは、1960年代から70年代にかけて国際的に活躍し、当時の日本の現代美術界でスーパースターだった高松次郎(1936-1998)の作品です。先日まで東京国立近代美術館で大規模な回顧展が開催されていましたね。
こちらが今回出品する「作品」(Work, 1962)です。30㎝四方に満たないキャンバスに描かれるのは、交互に重なる小さな四角。ブルー、ピンク、イエロー、グリーン…のカラフルな四角と、白い四角が順々に表れて、画面中央に向かうほどその形は小さくなっていきます。一見何の変哲もない、スタイリッシュな作風の絵画です。
「私は自分なりに芸術の表現は、限りなく無に近いことが好ましいと考えていました」*
すべての価値観において、ゼロからの問い直しを余儀なくされた敗戦直後の日本。哲学や数学、物理学を愛好した高松は、誰もが当たり前だと思っているものの見方について、スマートな創作活動を通じ次々と疑問を投げかけていきました。高度成長期の真只中の1960年代前半には、赤瀬川原平、中西夏之とともにユニット「ハイレッド・センター」を結成。「反芸術」的なパフォーマンスを繰り広げ、それまでの日本の芸術の常識、枠を超えた斬新なハプニングを実行します。
1964年以降、高松の名前を一躍有名にしたのが、クールな「影」のシリーズです。
「影」シリーズの前に立つ人は、キャンバスのなかに、当然あるはずの自分の影ではなく、本来見えないはずの他人のリアルな影をみつけます。アートを通して、ものの存在と不在について、深く、論理的に思いを巡らせる。高松の作品には、世界の根源的な成り立ちについて人に考えさせる、不思議な魅力があります。
「作品」(Work, 1962)は、「影」シリーズが生まれる以前、高松が大学を卒業した後にインダストリアル・デザイナーとして働いていた時期の作品です。サラリーマンという現実的な道を選ぶ一方、「日曜(深夜)画家」として読売アンデパンダン展を中心に出品、「点」「紐」などの初期のシリーズを生み出し始めた年にあたります。この頃の高松は、ものは「素粒子」という目には見えない極小の「点」でできているという考えを持っていました。この作品は平面にある「点」を意識させ、絵画空間が消失点に集約されていくシステムが描かれているようにも見えます。
欧米では近年、日本の戦後美術そのものを再評価する流れが加速しています。高松次郎も、ニューヨーク近代美術館に作品が所蔵されるなど、海外での注目がじわじわと高まっています。この小さな作品を手がかりに、知的で繊細、そして時空間を超えるスケールをひそかに持つ、高松次郎の思考の軌跡をたどってみてはいかがでしょうか?
*高松次郎「影のシリーズについて――いまの時点から」(1987年)