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ART FAIR TOKYO 2017 作品紹介 | 高松次郎

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# ART FAIR TOKYO # 高松次郎

NUKAGA GALLERYは今年もアートフェア東京2017に出展いたします。
出品作品の中から、注目の作品をピックアップしてご紹介してまいりますので、どうぞお楽しみください。
第1回目は高松次郎(1936-1998)の作品をご紹介します。

高松次郎「№234」(32.0×41.0㎝、1968年作)
高松次郎「№234」(32.0×41.0㎝、1968年作)

棚に歯ブラシと歯磨きが入ったコップが置かれ壁に影が映っているという情景なら何も問題はないのだが、実際はその影のみが残されて・・・ザワッとする感じ
影が描かれているのにそこに漂うのは不在感

 

1968年制作のこの作品の作家は戦後現代美術のカリスマ的な旗手、高松次郎。
東京藝術大学で小磯良平教室に学ぶが、彼の関心は風景、人物、静物などの客体や心理描写を如何に表すかという近代美術の概念からほど遠いところにありました。
実在とは何だろうということ、実在に迫ろう、しかしはたして実在に辿り着けるのか、それは、とりもなおさず不在とは何だろうということ、それを垣間見せるのが作品だという。
「ぼくがこれからしなければいけないことは、実在性からどこまで遠くへ行けるのかという実験でなければなりません」(不在性のために)

 

デビュー当初の作品は「点」、1962年制作の「点」は画面中央に針金が絡み合った点がある。点とは実体を持たないが、全ての可能性を占めているものでもあるとのこと。
次に「紐」シリーズ、それは点に長さが加わったもの、すなわち実体が無く「長さ」そのものが特性であるとしています。1963年の第15回読売アンデパンダン展に出品された紐は、会場である上野の東京都美術館から何者かに継ぎ足されて会場外へ、そして上野駅まで伸びていきました。
そして「影」、1964年に初めて制作(「影A」シェル美術賞佳作)されて以来、終生追い求めたテーマとなります。翌1965年のシェル美術賞では「影の圧搾」「影の祭壇」が1等賞を受賞しています。

「影A」211,0×168.0×12.0㎝ 1964年作
「影A」211,0×168.0×12.0㎝ 1964年作

さてこのコップの影の作品(「№234」)に戻りましょう。本来の影とは実在と不在の狭間にありますが、この作品では影だけが定着されて逆に不在性が強調され、得も言われぬザワッとした感じを受けるのです。
とどのつまり高松次郎は、作品を視る者に「ザワッとした感じ」を味わわせたかったのではないでしょうか。

 

次に彼は、消失点を奥に置いて遠くに行くほど小さくなる西洋合理主義から生じた遠近法で描かれた机や椅子を、今度は遠近法の縮尺で立体に戻した作品を発表します。(「遠近法の椅子とテーブル」1966年作など)
既成概念の遠近法、それは不安定で奇妙な世界となり実在を捉えている訳ではないのです。この作品が作られた頃から彼は「もの派」の作家たちと呼応しながら、「波」シリーズ、「文字・単語」シリーズや「単体」シリーズなど活発な制作活動を展開していきます。
「もの派」の基本的な概念は、人間が与えた客体の意味、即ちイマジネーションで塗り固められた客体のホコリを払う装置を設定することとしています。そこで「もの」は現前と立ち現れてくるとのこと。
但し、高松次郎は「もの」そのものに近づけても辿り着けはしないとしています。
「ある固定観念をこわし、新しい意識によってより拡大された関係を持つことができたとしても、真の全体性という無限の中では、永遠に部分であるにしか過ぎず、新しい意識も、ほっておけばすぐに固定観念になるだけです。」(全体性について)

 

1960~1970年にかけてのアート・シーンは「ミニマリスム」「コンセプチャル・アート」そして「もの派」へと向かい、辿り着いた先はストイックな世界でありました。
その閉塞感の中、高松次郎は「単体」ではなく「もの」を連関性の中から見直す「複合体」、そして「平面上の立体」へと展開し、やがて彼の原点である「点=実は豊饒な原初の点」から生じたような「原始」の形へと辿り着きます。1979年に制作した作品に「國生み(古事記、日本書紀)より」というタイトルの作品がありますが、イザナギイザナミの命が杖で混沌の海をかき回して垂れた滴から最初の島、淡路島が生まれたように、何かを表現するというのではなく、ささやかな仕草で「原始」の形(「形/原始№1382」1995年作など)を手繰り寄せるべく「豊饒な原初の海」に漕ぎ出でたのです。
1998年、享年62歳で逝去。

「形/原始 №1382」205.0×291.0㎝ 1995年作
「形/原始 №1382」205.0×291.0㎝ 1995年作

近年、彼の研ぎ澄まされた思念から生まれた作品群は世界で高い評価を受け、国内でも矢継ぎ早に大々的な回顧展が開かれています。
そして、この「№234」は、まさに彼のエポックメイキングな時期『1960年代後半』と主題『影』の作品です。

 

 

By T-KURO

 

参考図版①
「影A」211,0×168.0×12.0㎝ 1964年作 いわき市立美術館収蔵
参考図版②
「形/原始 №1382」205.0×291.0㎝ 1995年作 国立国際美術館収蔵

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